「乳がん」検査科のとりくみ
「乳がんが進行してから受診する患者さんの数ってなかなか減らないし、最近ちょっと多いような気がする」
勤医協札幌病院検査科の職員たちが気づきました。
「何か理由があるの?調べてみようか」
さっそくカルテに記載されている情報から、患者さんの背景に目を向けました。
(北海道民医連新聞 2018年11月8日号 第531号より)
受診をためらう乳がん患者の背景を調査
受診をためらう乳がん患者の背景を調査
乳がんの自覚症状は、はじめは小さな「しこり」を感じることが多いのですが、がんが進行すると皮膚にも広がり、変色したり潰瘍ができることもあります。
検査科の岡部美恵さんは「進行乳がんの方は一定数経験しますが、悪化してから受診する人が最近多くなったように感じました。
皮膚の変化や痛みが出るまでの間、受診を迷って悩んでいた患者さんの心境を想像すると辛くなります。生活背景や社会的背景が気になりました」と話します。
そこで、2013年4月から2018年3月までの5年間に札幌病院で診断された乳がん患者を対象に、カルテを調べることにしました。
カルテには、看護師やソーシャルワーカーが患者さんから聞き取った情報が綴られています。
そうした情報から、腫瘍が大きくなるまで受診しなかった理由や経済状況、家庭の事情などを調査しました。
経済的事情で悪化 「医療費に悩まず受診してほしい」
経済的事情で悪化 「医療費に悩まず受診してほしい」
負担をかけたくない
調査対象とした5年間に勤医協札幌病院を受診して乳がんと診断された患者さんは167人。
そのうち、腫瘍径が5センチを超えていたのは11人でした。そのうち、来院時に自覚症状があった方は9人。
その他の2人は、乳がん検診などで診断されました。
自覚症状がありながらも2ヵ月以上受診に結びつかなかった方は6人で、最長で14年間受診を迷っていた方もいました。
その理由は、「夫に経済的負担をかけたくない」「保険に入っていなかった」「お金がなくて受診できなかった」という経済的事由が3人でした。
いずれも無料・低額診療制度(無低制度)などを利用して、診断・治療を受けています。
その他、「気にしていたが仕事が忙しく、後回しにしていた」「他の病気の治療を優先していたので受診が遅れた」「もうトシだから何もしたくないと思った」という方もいました。
11人の年齢は46~91歳、平均63・7歳で、60代が最も多くなっています。
乳がん罹患年齢のピークは40代後半から50代前半なので、それと比べて高めです。
独居6人、家族と同居が4人、高齢者施設入所者が1人で、家族構成による特徴はみられませんでした。
保険種別では、協会けんぽが5人、国民健康保険が2人、後期高齢者医療保険2人、生活保護と無保険が1人ずつ。
無保険の方は、医療費を心配して受診をためらっていました。
すぐに受診につながらなかった方の半数は、しこりがあっても悪性のものかもしれないと考えていなかったことも分かりました。
加齢黄斑変性症
加齢黄斑変性症
早期治療が大切
岡部さんは、
「さまざまな事情があって相談や受診につながらない状況になっているのだと思います。
乳がんの認知度は上がっていますが、『胸のしこり=乳がんの可能性』との考えに至っていない方もいて、まだまだ周知が足りないこともわかりました。
乳がんは早期発見することで治療の選択肢が広がり、経済的負担も少なく、予後も良好となります。
がんを切除した乳房を再建する手術が保険適用になっていることも伝えていきたい」
と話します。
今回の調査結果から、経済的困難によって診断や治療をがまんすることのないように働きかける必要性を実感したといいます。
岡部さんは、
「ピンクリボン(乳がんの啓発運動)や友の会の訪問活動などで積極的に地域に出て、無料・低額診療制度や検診の重要性などを広めていきたい。
異常を感じたら悩まず、まず受診するように伝えていくと同時に、お金の心配をせずに安心して受診できる制度を社会に向けて求めていく活動も大切にしていきたい」
と話します。
検査科では、この調査結果を北海道民医連学術運動交流集会で発表しました。